死に臨んで故国の愛子に送る


横川省三
  拝啓。父は 天皇陛下の命により露国に来り、四月十一日露兵の為に捕へられ、今彼等の手により銃殺せらる。これ天なり命なり。汝等幸いに身を壮健にし尚国の為に盡(つく)す所あれ。我死に臨んで別に言ふ所無し。母上は勿論宜しく汝等より伝ふべし、富彌にも宜しく伝ふる所あれ。

   明治卅七年四月廿日        満州哈爾賓(ハルピン) 横 川 省 三

      横 川 律 子 殿
      横 川 勇 子 殿

「此の手紙と共に支那北京の支那銀行手形にて五百両(テール)を送る。井上敬次郎、山口熊野(ゆや)等の諸君と相談の上、金に換ふるの工夫を為すべし。」
  此の手紙と共に五百両(テール)を送らんと欲したれども、総て露国の赤十字社に寄附したり。

(注)
「此の手紙……工夫を為すべし」の所はペンにて縦横抹殺せり。然れども字形弁ずべし。当時の状を推想するに足る。
 


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