自作漢詩集



最近、ひょんなことから、漢詩を作り始めました。ほとんど七言絶句です。
恥ずかしながら少し紹介させていただきます。HTMLなんで横書き表示になります。詩句の後に、平仄と韻を表示しています。
近頃はPC用の平仄・韻チェックツールがあり(漢太郎、シェア ウェア)、それを便利に使わせていただいています。
学研のSuper日本語大辞典も、 同じ韻を持つ漢字の検索、詩句の検索、平仄の表示などが出来て、詩作には大変便利です。


「老惨」

紅顔才子嘯文彬 ○○○●●○○ 十一真 老惨
鵬翼浩図充小壇 ○●●○○●○ 十四寒
呑舟之鰐南冥出 ○○○●○○● 質
不覚今唯浅轍蟠 ●●○○●●○ 十四寒

紅顔(こうがん)の才子(さいし)は文彬(ぶんぴん)を嘯(うそぶ)き
鵬翼(ほうよく)の浩図(こうと)は小壇(しょうだん)に充(み)つ
呑舟(どんしゅう)の鰐(わに)は南冥(なんめい)を出で
覚(おぼ)えず今唯(いまただ)浅轍(せんてつ)に蟠(わだかま)るを

(解説)
漢詩第一作。以下の作品も多くそうですが、基本的に高校時代からの親友を諫める詩が大部分を占めています。
その親友は、文人であり、高校時代は英才と言われましたが、その後酒びたりの生活でろくに努力もしていないのを諫めています。
その友人のペンネームが「荘子」にちなむものであるため、全体に荘子に出てくる言葉を使っています。
「呑舟之鰐」も本来は「呑舟之魚」ですが、平仄が合わないため、鰐にしました。また、少し、ショボオ−山本夏彦氏訳の 「年を歴た鰐の話」を意識しています。
結句も、荘子に出てくる「轍鮒の急(てっぷのきゅう)」を意識したものです。(車の浅い轍{わだち}に出来た水たまりにはまってしまった鯉が、明日大河に 連れて行ってもらうのではなく、今すぐ一瓶の水を注いで欲しい、と言ったという故事。)さらには、古文真宝の中の張轂(ちょうこく)の「行路難(こうろな ん)」にある、「龍蟠泥中未有雲」(龍は泥中に蟠りて未だ雲有らず)もベースにさせてもらっています。
(作成日:2003年4月24日)


「郷村」

柳眉山色促春眠 ●○○●●○○ 一千   郷村
渭水鮒魚安小鱗 ●●●○○●○ 十一真
昔日故人洛中傑 ●●●○●○● 屑
郷村不悦都楼塵 ○○●●○○○ 十一真

柳眉(りゅうび)の山色(さんしょく)春眠(しゅんみん)を促(うなが)し
渭水(いすい)の鮒魚(ふぎょ)は小鱗(しょうりん)を安(やす)んぜしむ
昔日(せきじつ)の故人(こじん)洛中(らくちゅう)の傑(けつ)
郷村(ごうそん)は悦(よろこ)ばす都楼(とろう)の塵(ちり)

(解説)
徳島には、「眉山」もあり、「渭城」と呼ばれる徳島城(跡)もあります。「渭水」はその徳島城のお堀です。(徳島には「渭水苑」という料亭もあります。)
起句と承句はそんな徳島の春ののんびりしたイメージを歌っています。
東京で活躍した親友の故郷に戻ってからの停滞振りを皮肉ったものです。
(作成日:2003年4月25日)



「頌歌」

日進沖天走遠帆  ●●○○●●○ 十五咸 頌歌
月昇払暁立竿林  ●○●●●○○ 十二侵
争先烏兎陰陽化  ○○○●○○● 示馬
今大漁成皆朗吟  ○●○○○●○ 十二侵

日は沖天(ちゅうてん)に進みて遠帆(おんぽ)走り
月は払暁(ふつぎょう)に昇りて竿林(かんりん)立つ
烏兎(うと)は先を争いて陰陽は化(か)し
今大漁成りて皆朗吟(ろうぎん)す

(解説)
これは、親友とは関係なく、前の会社の友人に送ったもの。それぞれの行に前の会社の名前を一文字ずつ読み込んであります。
その会社の営業所が東京の芝浦にあったので、広重の江戸近郊八景の「芝浦晴 嵐」のイメージで詠んでます。またそのあたりからは、東京湾に繰り出す釣り船の釣り宿がたくさんあります。結句がかなり俗っぽくなっていますが、 おめでたいのでいいかと思います。中国では烏は太陽の中に、兎は月の中に住んでいるとされています。
(作成日:2003年4月27日)



「於沙士禍訪香港」

旧雨濡襟花馥郷 ●●○○○●○ 七陽 SARS香港
千秋叙闊陋京望 ○○●●●○○ 七陽
古聞魂魄走仟里 ●○○●●○● 紙
豈恐侵沙士口肓 ●●○○●●○ 七陽

旧雨(きゅうう)襟(えり)を濡らす花馥(かふく)の郷(きょう)
千秋(せんしゅう)の闊(かつ)を叙(じょ)し陋京(ろうきょう)を望む
古(いにしえ)に聞く魂魄(こんぱく)仟里(せんり)を走る
豈(あに)沙士(SARS)の口肓(こうこう)を侵(おか)すを恐れん

(解説)
この句は、別のページにあるように、SARS禍にめげず、香港に前の会社の同僚を訪ねた時 に作った句です。「花馥の郷」も「陋京」も香港のつもり。旧雨は旧友(杜甫の句にあり)。
沙士というのは、SARSの中国語表記。たぶん、SARSに関する漢詩を作った日本人は私が初めてではないかと思います。
また、結句は当然ながら、「病膏肓に入る」のもじりです。「口肓」で「口と胸元」の意味でSARSにぴったり。
(作成日:2003年4月29日)


「祝再会与旧友」

老友白頭証久離 ●●●○○●○ 四支 旧友
三層青布隠玲妃 ○○○●●○○ 五微
港人振竹黄仙廟 ●○○●○○● ビョウ
聖母老君何向祈 ●●●○○●○ 五微

老友の白頭(はくとう)久離(きゅうり)を証す
三層の青布(せいふ)玲妃(れいひ)を隠す
港人(こうじん)竹を振る黄仙(こうせん)の廟(びょう)
聖母(せいぼ)老君(ろうくん)何(いず)れに向けてか祈る

(解説)
これも香港SARS関連句です。起句と承句を対句にしています。
三層の青布はもちろん、SARS対策のマスクのこと。(写真参照
香港には黄 大仙という道教寺院があり、地元の人が筮竹を振って様々なお祈りをします。
聖母は病気治癒の神様、老君は太上老君で長寿の神様、起句と承句の対句の内容を受けて、SARSの病気と長寿とどちらの神様に向かって祈っているのか、と いう素朴な句です。
(作成日:2003年5月4日)


「阿波竹枝風諫詩」

蕭蕭吉野竹糸枝 ○○●●●○○ 四支 阿波竹枝風諫詩
蛾黛山中酔虎馳 ○●○○●●○ 四支
巡奇厭労盃三五 ○○●●○○● 塵
尚志何忘鵬翼思 ●●○○○●○ 四支

蕭蕭(しょうしょう)たる吉野竹糸(ちくし)の枝
蛾黛(がたい)の山中酔虎(すいこ)馳(は)す
奇(き)を巡(めぐ)らし労(ろう)を厭(いと)う盃(はい)三五(さんご)
志を尚(たか)くすれば何ぞ鵬翼(ほうよく)の思いを忘れん

(解説)
これも親友への諫詩。漢詩の分野に「竹枝」というのがあり、地方の風物を詠みこみます。
この詩はいくぶんそれを意識しています。「竹糸の枝」は友人の名字も意識しています。
吉野はもちろん徳島を流れる吉野川、蛾黛山は「蛾のような黛の山」で「眉山」のつもり。酔虎は中島敦の山月記の人食い虎のイメージ。
結句は、このHPの名前(私の名前の一部を取ったもの)をもじっています。
(作成日:2003年5月8日)


「山家訪歌人」

日傾山邑睡猶安 ●○○●●○○ 十四寒 山家訪歌人
老犬孤沈加賜餐 ●●○○○●○ 十四寒
舎側藤花無見主 ●●○○○●● 塵
唯知朽筆谷風乾 ○○●●●○○ 十四寒

日は山邑(さんゆう)に傾きて睡(ねむ)り猶(なお)安し
老犬は孤(ひと)り沈(ちん)し賜餐(しさん)を加える
舎側(しゃそく)の藤花(とうか)見る主(しゅ)無く
唯(ただ)朽筆(きゅうひつ)の谷風(はるかぜ)に乾くを知る

(解説)
これもまた親友への諫詩。起句と承句は実景の写生で、友人を訪ねたら、TVを付けっぱなしにして昼寝中。老犬は鳴き声をあげず、私が持参した犬用のおやつ を喜んで食べています。(番犬としての自覚なし)(賜餐を加える=もらったご馳走を食べる)
転句と結句は創作ですが、昼寝ばかりして文筆は乾いてしまったままではないのか、と皮肉っています。ちょっと白楽天風の静音の世界で自分では気に入ってい ます。
(作成日:2003年5月11日)


「祝出版贈老師」

賢者移山万簣加 ○●○○●●○ 六麻 祝出版
江湖啓昧教文華 ○○●●●○○ 六麻
不見白霜明鏡裏 ●●●○○●● 紙
却裁青草乱如麻 ●○○●●○○ 六麻

賢者(けんじゃ)山を移さんとし万簣(ばんき)を加(くわ)う
江湖(こうこ)の昧(くら)きを啓(ひら)き文華(ぶんか)を教う
白霜(はくそう)を明鏡(めいきょう)の裏(うち)に見ず
却(かえ)って青草(せいそう)の麻の如く乱れるを裁(た)つ

(解説)
これはある方の出版物に対するお祝いの句。結句は、青二才の似非学者をどんどん切りまくってください、ということ。起句は「愚公移山」(愚直な老人が山を 移動させようとした故事)にちなんだものです。
(作成日:2003年5月14日)


「白顔独酌」

白顔悄悄玉觴斟 ●○●●●○○ 十二侵 白顔独酌
青翼茫茫芳水沈 ○●○○○●○ 十二侵
帰雁何時游故岳 ○●○○○●● 覚
池塘春草転傷心 ○○○●●○○ 十二侵

白顔(はくがん)悄悄(しょうしょう)として玉觴(ぎょくしょう)に斟(く)み
青翼(せいよく)茫茫(ぼうぼう)として芳水(ほうすい)に沈(ちん)す
帰雁(きがん)何(いず)れの時にか故岳(こがく)に游ぶ
池塘(ちとう)の春草(しゅんそう)に転(うた)た傷心(しょうしん)す

(解説)
これも諫詩です。ちょっと習作気味で、個々の行はともかく、全体の意味のつながりがうまくできていないので、次の次の七言律詩の材料として再利用しまし た。
(作成日:2003年5月18日)


「酔猫」

偶因狂疾化肥猫 ●○○●●○○ 二蕭 酔猫
無毒与無牙棘凋 ○●●○○●○ 二蕭
当時声跡亦相嘯 ○○○●●○● 嘯
酔眼朦朧被笑梟 ●●○○●●○ 二蕭

偶々(たまたま)狂疾(きょうしつ)によりて肥猫(ひびょう)と化(か)す
毒(どく)無く牙(きば)無く棘(とげ)しぼむ
当時の声跡(せいせき)また相嘯(あいうそぶ)く
酔眼朦朧(すいがんもうろう)梟(ふくろう)にも笑わる

(解説)
これも諫詩。友人の好きな中島敦の「山月記」に出てくる人食い虎の自嘲の句をもじったもの。虎でなくてあなたは猫でしょう、と皮肉ってます。承句は中島み ゆきの「瞬きもせず」という歌に出てくる歌詞のもじりです。
(作成日:2003年5月18日)


「諫友之在郷関」

蕩子西方麑洛出 ●●○○○●● 質     
郷関欲飾錦糸吟 ○○●●●○○ 十二侵
白顔悄悄銀觴酌 ●○●●○○● 薬
青翼茫茫芳水侵 ○●○○○●○ 十二侵
志逸不翔朝渺渺 ●●●○○●● 篠
酔来不学夜沈沈 ●○●●●○○ 十二侵
池塘踏草無萌起 ○○●●○○● 紙
帰鴨何時嘯故森 ○●○○●●○ 十二侵

諫友之在郷関

蕩子(とうじ)西の方麑洛(げいらく)を出で
郷関(きょうかん)に錦糸(きんし)の吟を飾らんと欲す
白顔(はくがん)悄悄(しょうしょう)として銀觴(ぎんしょう)に酌(く)み
青翼(せいよく)茫茫(ぼうぼう)として芳水(ほうすい)を侵(おか)す
志は逸(そ)れて翔(と)ばず朝渺渺(びょうびょう)
酔(よい)は来たりて学ばず夜沈沈(ちんちん)
池塘(ちとう)の踏草(とうそう)萌(も)え起きるなく
帰鴨(きおう)何れの時にか故森(こしん)に嘯(うそぶ)く


(解説)
七言絶句にはかなり慣れてきたので、ここで七言律詩に挑戦してみました。素材として先に作った七言絶句を利用しました。初めての律詩にしては、対句もまあ まあで良く出来たのではないかと自画自賛しています。麑洛はちょっと苦しいですが、鹿児島のつもり。(友人ともども出身高校が鹿児島にあったため。)芳水 は吉野川のつもり。
(作成日:2003年5月20日)


「壇ノ浦」

細魚沐汐早艫淵 ●○●●●○○ 一先 壇ノ浦
女臈濯纓裳裔川 ●●●○○●○ 一先
幼君何処獨醒起 ●○○●●○● 紙
浦上無漁父撥絃 ●●○○●●○ 一先

細魚(さいぎょ)汐(しお)に沐(もく)す早艫(はやとも)の淵(ふち)
女臈(じょろう)纓(えい)を濯(あら)う裳裔(もすそ)の川
幼君(ようくん)何(いず)れの処(ところ)にか獨(ひと)り醒(さ)め起(お)く
浦上(ほじょう)に漁父(ぎょほ)の絃(げん)を撥(はじ)く無し

(解説)
故郷の源平合戦の古戦場、関門海峡の壇ノ浦を詠ってみたもの。
平家の女官に抱えられて入水した幼帝安徳天皇と、楚辞の「漁父辞」の屈原の故事をかけてあります。
早艫は正しくは「早鞆の瀬戸」ですが、「鞆」は国字であるため、漢詩には使えません。「裳裔(もすそ)の川」とは下関市内の「みもすそ川」のこと。昔、女 臈に身を落とした平家の女官がここで衣を洗ったという伝説があります。
「沐−濯纓−獨醒起−漁父」など、すべて「漁父辞」に出てくる言葉を使っています。海底の藻屑となった幼帝を、屈原に例えて、「どこに独り醒めて起きてい らっしゃるのか」と詠みました。
(作成日:2003年5月25日)


「寄茶会偶作」

蒼生能摘鬱金芽 ○○○●●○○ 六麻 寄茶会偶作
奇貨可居黎洛家 ○●●○○●○ 六麻
不問煎淹除雑慮 ●●○○○●● 御
共詞林楽莫如茶 ●○○●●○○ 六麻

蒼生(そうせい)能(よ)く摘む鬱金(うこん)の芽
奇貨(きか)居(お)くべし黎洛(れいらく)の家
煎淹(せんえん)を問わず雑慮(ざつりょ)を除く
共に詞林(しりん)と楽しむに茶に如(し)くは莫(な)し

(解説)
ある知り合いの先生が、パリで購入してきた中国産紅茶を楽しむお茶
会に寄せたもの。
蒼生とは(中国)人民のこと。盧仝(ろどう)の「茶歌」の最後にこの言葉が出てきます。「鬱金の芽」は茶の 芽、茶の葉。「奇貨居(お)くべし」は、秦の始皇帝の父にちなむ有名な故事。
「黎洛」は、例によって苦しいですが、パリのつもりです。(パリは中国語で「巴黎」)
煎淹はお茶の入れ方の技法で、「煎」は熱湯で煮出すやり方、「淹」は普通の急須を使うやりかた。
「詞林」は共に詩作を楽しむ仲間の意味。日本語では「辞書」の意味もあります。
(作成日:2003年6月3日)


「寄茶会偶作 二」

煙香芳滴払千憂 ○○○●●○○ 十二尤 寄茶会偶作 二
花馥甘湯除万愁 ○●○○●●○ 十二尤
書裏蠹魚能好味 ○●●○○●● 未
却須賞翫師薫優 ●○●●○○○  十二尤

煙香(えんこう)の芳滴(ほうてき)千憂(せんゆう)を払い
花馥(かふく)の甘湯(かんとう)万愁(ばんしゅう)を除く
書裏(しょり)の蠹魚(とぎょ)も能く味を好めり
却(かえ)って須(すべか)らく賞翫(しょうがん)すべし師薫(しくん)の優(まさ)れるを

(解説)
これも上記の茶会に寄せたもの。起句、承句はそれぞれラプサン・スーチョン(正山小種)というスモーキー・フレーバーのお茶と、マルコ・ポーロという花の 香りのするお茶を詠んだもの。
蠹魚(とぎょ)というのは書物に巣くう紙魚(しみ)のことです。結句は、元々の句は仲間落ちだったので、少し修正して あります。師薫(しくん)は先生から受けた薫陶という意味のつもりです。お茶の香りもいいけど、先生から受けた学恩ももっと大事に しなさいと詠いました。
(作成日:2003年6月17日)



「想故園」

烟雲留僻土 ○○○●● 麌  想故園
瘴雨濯孤居 ●●●○○ 六魚
萬里天涯下 ●●○○● 馬
愁眠夢故閭 ○○●●○ 六魚


烟雲(えんうん)僻土(へきど)に留まり
瘴雨(しょうう)孤居(こきょ)を濯(あら)う
萬里(ばんり)天涯(てんがい)の下(もと)
愁眠(しゅうみん)故閭(こりょ)を夢む

(解説)
五言絶句を作ったことがなかったので、練習してみました。短歌と俳句の違いみたいに、五言絶句の方がわずか五文字で一句をまとめなければいけない分大変で す。梅雨の憂鬱な天気の中、故郷を思う気持ちを詠んでみました。
故閭(こりょ)は故郷の村、という意味です。
(作成日:2003年6月24日)


(更新:2003年6月24日)


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